空き瓶の研究日誌

生物系大学院生の備忘録

レーザーマイクロダイセクション法についての下調べ

 

他の研究室の学生さんの発表を聴いていたところ,レーザーマイクロダイセクション法という手法を用いてRNA-seqなどを行っている人がいた.切片などから特定の組織のみを顕微鏡で見つつレーザーで切り抜いてくる,という手法のよう.

自分にとってはあまりなじみのない手法だったのだが,今後網羅的な解析も行いたいと考えていることもあり,現在の研究に応用できるかも,と思ったので調べてみることにした.今回はその備忘録.

 

まず概要については,簡潔にまとめられたPDFをweb上で発見.

https://aproscience.com/pdf/202004_integrale_laser_microdissection.pdf

 

日本語で調べると哺乳類など脊椎動物の話がほとんどなので,Google scholarを使って軟体動物や頭足類での使用例を調べてみた.

 

軟体動物だとカキやジャンボアメフラシの例が検索結果の上の方に出てくる.神経関連の実験で使われている模様.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0016648011004655

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.4161/cib.3.5.12091

 

 

さらに頭足類に絞って調べてみると,Paralarvaeの胃内容物についての論文や色素胞に関する論文がいくつかみられた.でもやはり頭足類では近年の論文が多く,まだ応用され始めなのかな,と感じた.

https://www.nature.com/articles/s41598-018-21501-y

https://royalsocietypublishing.org/doi/full/10.1098/rsif.2013.0942

 

 

ただ応用できないことはなさそうと言うことがわかったので,サンプルの調製方法とかもう少し詳しく調べて,使用できないか詰めていけると良いのかも.

 

 

 

論文備忘録) フィンチの嘴の形態差を生み出す遺伝子

リファレンス

Bmp4 and morphological variation of beaks in Darwin's finches.

Abzhanov, A., Protas, M., Grant, B. R., Grant, P. R., & Tabin, C. J. (2004). Science, 305(5689), 1462-1465.

https://science.sciencemag.org/content/305/5689/1462.abstract

 

要旨

Darwin's finches are a classic example of species diversification by natural selection. Their impressive variation in beak morphology is associated with the exploitation of a variety of ecological niches, but its developmental basis is unknown. We performed a comparative analysis of expression patterns of various growth factors in species comprising the genus Geospiza. We found that expression of Bmp4 in the mesenchyme of the upper beaks strongly correlated with deep and broad beak morphology. When misexpressed in chicken embryos, Bmp4 caused morphological transformations paralleling the beak morphology of the large ground finch G. magnirostris.

 

 

コメント

 ダーウィンフィンチの論文.BMPが形態の差異に大きく寄与していることは知識としては知っていたが,しっかり論文を読んだことはなかったので,改めて手法や結果などを見るとストーリーもわかりやすくてとても参考になった.今後似たような流れでやる研究も考えているので,関連文献ももっと当たっておきたいな.

 

 

論文備忘録) ニハイチュウの生息場所

リファレンス

Renal organs of cephalopods: a habitat for dicyemids and chromidinids. 
Furuya, H., Ota, M., Kimura, R., & Tsuneki, K. (2004). Journal of Morphology, 262(2), 629-643.

 

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/jmor.10265

 

要旨


The renal organs of 32 species of cephalopods (renal appendage of all cephalopods, and renal and pancreatic appendages in decapods) were examined for parasite fauna and for histological comparison. Two phylogenetically distant organisms, dicyemid mesozoans and chromidinid ciliates, were found in 20 cephalopod species. Most benthic cephalopods (octopus and cuttlefish) were infected with dicyemids. Two pelagic cephalopod species, Sepioteuthis lessoniana and Todarodes pacificus, also harbored dicyemids. Chromidinid ciliates were found only in decapods (squid and cuttlefish). One dicyemid species was found in branchial heart appendages of Rossia pacifica. Dicyemids and chromidinids occasionally occurred simultaneously in Euprymna morsei, Sepia kobiensis, S. peterseni, and T. pacificus. The small‐sized cephalopod species, Idiosepius paradoxus and Octopus parvus, harbored no parasites. Comparative histology revealed that the external surface of renal organs varies morphologically in various cephalopod species. The small‐sized cephalopod species have a simple external surface. In contrast, the medium‐ to large‐sized cephalopod species have a complex external surface. In the medium‐ to large‐sized cephalopod species, their juveniles have a simple external surface of the renal organs. The external surface subsequently becomes complicated as they grow. Dicyemids and chromidinids attach their heads to epithelia or insert their heads into folds of renal appendages, pancreatic appendages, and branchial heart appendages. The rugged and convoluted external surface provides a foothold for dicyemids and chromidinids with a conical head. They apparently do not harm these tissues of their host cephalopods.

 

 

コメント

 頭足類に寄生するニハイチュウや繊毛虫の生息場所である腎臓などの組織構造を多種間で比較した論文.系統ごとに内蔵で見られる寄生生物の種類は異なっており,また小型のヒメイカやマメダコでは全く寄生されていなかったとのことである.また腎臓の組織自体も,種によって上皮細胞の形態に違いがみられ,寄生されやすさとの関係性も考察されていた.漂泳性のイカ(ヤリイカスルメイカなど,ツツイカの仲間)では寄生がみられるのは稀であるといったことや,底生性のものでもマメダコなど岩礁域に生息するものではニハイチュウがみられないということなど,宿主の生態に応じて寄生の状況が大きく異なるというのは興味深かった.ニハイチュウについては詳しく調べたことがなかったので,恥ずかしながらほとんどの種で当然のように寄生されているものだと思っていた.

 また,ところでオウムガイではどうなんや,と思って少し調べてみたところ,どうもオウムガイではニハイチュウは見られないらしい (Koshida et al., 1986). これもおそらく生息環境の違いによるものが大きいのやろうな.

 マメダコの組織について触れた論文ということで読んでみたが,頭足類をやっているのに寄生するニハイチュウについては全然知らなかったということを痛感.もっと新しい論文も探して読んでおきたい.

 

 

 

マメダコについての文献

 

ここのところマメダコ Octopus parvus が定期的に採集出来ており,小さくて飼いやすいので最近のお気に入り.

成体は扱いやすいので研究材料として扱われてきたのだろうか,とふと気になったので文献を探してみた.

 

驚くほど情報が無い

結論から言って,系統学関連の論文以外でマメダコを扱っている研究がほとんど見つからない (自分の検索能力が未熟だということもあると思うが).

個人的な興味としてはやはり発生学・組織形態学的な情報が気になるのだが,そのような研究の材料として扱っている例はあまり見つけることができなかった.

特に発生に関する情報はほぼ皆無.野外ではそこそこ捕れる種であるだけにかなり意外ではあるが,産卵・孵化させるのはかなり難しいのかもしれない.

 

ちなみにFAO (Roper et al., 2014) など網羅的に頭足類の情報をまとめている文献にも当たって見たが,参考されている文献は3つのみで,内一つは論文と言うよりどちらかというと一般向けの「イカ・タコガイドブック」だった (Tsuchiya et al., 2002).やはり論文としての記載がほとんど無いのだろうな….イカ・タコガイドブックの記載内容もほとんど原記載 (Sasaki, 1917) の内容と変わらないみたいやったし.

 

気になる生物の文献情報はマメにチェックすべき

詳しい生態とか,組織形態学的な情報とか,まだまだいくらでも調べるべき情報が事柄がありそう.なんとなく捕まえて飼って観察するだけではなくて,きちんと記載されているかとか,そのあたりの嗅覚を鋭くしていければ色々と論文のネタが見つかるのかもしれないなぁ.

 

 

Reference
  • Jereb, P., Roper, C. F. E., Norman, M.D. & Julian, K. F. Cephalopods of the world. An annotated and illustrated catalogue of cephalopod species known to date. Volume 3. Octopods and Vampire Squids (FAO Species Catalogue for Fishery Purposes, No. 4, Vol. 3, Rome, FAO 2014).
  • Sasaki, M. (1917), “Notes on the Cephalopoda. II. Diagnoses of four new species of Polypus,” Nihon Dôbutsugaku Iho, 9: 364–367
  • Tsuchiya, K., Yamamoto, N., & Abe, H. (2002). Cephalopods in Japanese waters. TBS-Britannica Co., Ltd., Meguro-ku, Tokyo. (イカ・タコガイドブック)

 

ジャーナルの表紙

学術誌の表紙の画像について

先日,同じ研究室の助教の先生の論文が公開になったのだが,その先生の提出した画像がジャーナルの表紙に採用されていた.

 

表紙になればジャーナルのHPなどを見た際にその号のサムネイル画像として目に付くもので,身近な人の成果がそうやってわかりやすい結果となって世に出ると,研究の世界に入って日が浅い身としてはなんだかびっくり,感動してしまう (我ながら単純…).

 

その先生と世間話がてらそのことにも触れたら, ”いいでしょ” って素直に喜んでいらして (かわいい),少しお話しを聞かせてもらえた.

 

表紙用の画像は出さなきゃ損!

表紙用の画像を出すということも恥ずかしながら想定したことがなかったんやけど,どうもアクセプトが決まれば気軽に出せるものではあるみたい.

 

で,表紙に採用されれば実際閲覧数なども上がりやすいらしい,ということもおっしゃってたかな.

 

自分の研究内容を魅力的に多くの人に伝える,という意味ではやはり表紙に採用されるというのはとても大きいと思うし,採用されなくてもきれいでキャッチーな画像はプレゼンなどでも役に立つはず.

 

ひたすらデータを集めるだけでなく,普段から,この画像をジャーナルの表紙にするんや,と思えるような,人に興味を持ってもらいやすい魅力的な画像を意識して集めていくことも,大切なのかなと思ったな.

論文備忘録) タコの祖先は浮遊幼生期を持っていた

リファレンス

Evolution of development type in benthic octopuses: holobenthic or pelago-benthic ancestor?

Ibáñez, C. M., Peña, F., Pardo-Gandarillas, M. C., Méndez, M. A., Hernández, C. E., & Poulin, E. (2014). Hydrobiologia, 725(1), 205-214.

https://link.springer.com/article/10.1007/s10750-013-1518-5

 

 

要旨

系統関係からタコの祖先的な繁殖生態を推定した論文.

Octopuses of the family Octopodidae are singular among cephalopods in their reproductive behavior, showing two major reproductive strategies: the first is the production of few and large eggs resulting in well-developed benthic hatchlings (holobenthic life history); the second strategy is the production of numerous small eggs resulting in free-swimming planktonic hatchlings (pelago-benthic life history). Here, we utilize a Bayesian-based phylogenetic comparative method using a robust molecular phylogeny of 59 octopus species to reconstruct the ancestral states of development type in benthic octopuses, through the estimation of the most recent common ancestors and the rate of gain and loss in complexity (i.e., planktonic larvae) during the evolution. We found a high probability that a free-swimming hatchling was the ancestral state in benthic octopuses, and a similar rate of gain and loss of planktonic larvae through evolution. These results suggest that in benthic octopuses the holobenthic strategy has evolved from an ancestral pelago-benthic life history. During evolution, the paralarval stage was reduced to well-developed benthic hatchlings, which supports a “larva-first” hypothesis. We propose that the origin of the holobenthic life history in benthic octopuses is associated with colonization of cold and deep sea waters.

 

 

コメント

 タコの繁殖様式は大きく二つに分けられ,卵が大きく孵化直後から底生性のものと,卵が小さく孵化後に浮遊性の幼体の時期があるものが見られる.このどちらの様式が祖先的なのか,系統樹を基に推定した論文である.

 結果としては浮遊期を持つ様式が祖先的であり,そこから完全に底生性のものが複数回独立して進化したようである.頭足類はそもそも直接発生ではあるが,その中でもより間接発生的なものが祖先的である、というのは、他の軟体動物はトロコフォアなどの幼生を経て間接発生するものが主であることを考えるともっともであるようには感じる. そもそも頭足類全体を見ても,初期に分岐したオウムガイやタコと並ぶクレードのイカは主に遊泳性であるし. ただこのようにはっきりと系統関係から祖先的な形質が推定することは必要であるし,ありがたい知見である.

 イカでもスルメイカなど成体とは形態が異なる幼生期をもつものも見られるが,それらは祖先的なのか派生的なのかなど,まだまだ幅を広げられそうな興味深いトピック.

 

 

 

 

ツヅレウミウシ (?)

先日あげたマンリョウウミウシと同様に,三浦半島の磯場で見られたウミウシ.ツヅレウミウシ (Discodoris lilacina) に近いかと思うが、ここまで黄色いものは見たことがなく、あまり自信はない….

 

調べて見るとやはりかなり色彩に多型がみられる模様.きちんと種が判別できるように,もっと詳しく形態を見てみるようにしないといけないな.

 

あと,ツヅレウミウシについて図鑑やネットの記事ではいじめると外套膜を自切するとの記載も.ウミウシでそのような行動をとるのは見たことないから,それに関しても,どのくらいの大きさの範囲を自切するのかなど,気になるところ.

 

f:id:ikatoakibin:20210210002655j:plain

ツヅレウミウシ(?)_1

f:id:ikatoakibin:20210210002651j:plain

ツヅレウミウシ(?)_2