空き瓶の研究日誌

生物系大学院生の備忘録

論文備忘録)二枚貝類のtentacle

リファレンス

Form and function of tentacles in pteriomorphian bivalves.

Audino, J. A., & Marian, J. E. (2020).  Journal of morphology, 281(1), 33-46.

https://doi.org/10.1002/jmor.21077

 

要旨

二枚貝類の触手に着目した研究

Tentacle (触手) という形質は様々な無脊椎動物で見られるがその形態や機能は多様化している.二枚貝類も外套膜の周縁にtentacleを持っており,防御や分泌,感覚器官としての役割を担っている.しかし解剖学的な知見が不十分でありその多様化や進化についてはまだはっきりとわかっていなかった.Pteriomorphia (翼形類) はカキやホタテ,アコヤガイなどを含む分類群であり,二枚貝類の中でも特にtentacleが多様な形態を示す.本研究ではこの翼形類に属する4科6種について,組織学的な手法・SEM・共焦点顕微鏡を用いてtentacleの解剖学的な解析を行った.Tentacleはその外套膜状の生える位置に応じて middle fold tentacles (MFT) と inner fold tentacles (IFT) に分けられる.MFTではその構造から粘液物質を分泌していると考えられるが,IFTではそのような構造は見られない.しかし両方のタイプで粘液を輸送することに適した繊毛の分布と長さを持っていた.また防御や感覚器官としての役割については繊毛の分布などに加え筋肉の構造や神経支配の様子をもとに考察を行った.以上の結果から,MFTとIFTの相同性は PterioideaとOstreoideaの間でのみ見られ,構造上大きな違いが見られることから翼形類全体で相同な形質ではないと考えられる.本研究では,このように表面的にはよく似たtentacleという構造について,その相同性や機能を理解するために必要不可欠な解剖学的な要素を明らかにすることができたと言える.

 

コメント

一言:触手にも色々ある

触手というとイソギンチャクとかクラゲの触手のイメージの方が強かったので,二枚貝にもtentacleと呼ばれる器官があることをそもそもあまり意識したことがなかった.餌を捕るのに使われるわけではないが,様々な機能を持ち,また種によって形態が機能が異なると言うのもとても興味深い.海産無脊椎動物はほんとに形質の変化に富んでいるなぁ.特にこのtentacleの先端に眼を持つ例も挙がっていて,感覚器官としての働きを突き詰めることで収斂的に新しい形質を発達させているのが非常に面白かった.