空き瓶の研究日誌

生物系大学院生の備忘録

論文備忘録) タコの二足歩行

 

リファレンス

Bipedal locomotion in Octopus vulgaris: A complementary observation and some preliminary considerations.

Amodio, P., Josef, N., Shashar, N., & Fiorito, G. (2021). Ecology and evolution, 11(9), 3679-3684.

https://doi.org/10.1002/ece3.7328

 

 

要旨

Lacking an external shell and a rigid endoskeleton, octopuses exhibit a remarkable flexibility in their movements. Bipedal locomotion is perhaps the most iconic example in this regard. Until recently, this peculiar mode of locomotion had been observed only in two species of tropical octopuses: Amphioctopus marginatus and Abdopus aculeatus. Yet, recent evidence indicates that bipedal walking is also part of the behavioral repertoire of the common octopus, Octopus vulgaris. Here we report a further observation of a defense behavior that encompasses both postural and locomotory elements of bipedal locomotion in this cephalopod. By highlighting differences and similarities with the other recently published report, we provide preliminary considerations with regard to bipedal locomotion in the common octopus.

 

コメント

 タコの仲間の示す2足歩行の移動様式についての論文.海底を移動する動物だと多数の足を使って”這う”ものが一般的で,タコに関しても8本の足をなめらかに動かして這うように移動するか,泳いで移動するものがほとんどなので,わざわざ足を2本だけ使って歩行するように移動する、というのは考えてみればとても珍しいこと.実際にこれまで2足歩行するのが確認されているのはタコの中でも2種のみだったらしい.

 ではなぜわざわざこのような風変わりな移動方法を示すのかというと,この論文や先行研究では,歩くのに使う以外の足と体色のパターンの変化により,周辺の海藻のついた岩などに擬態しつつ移動する逃避行動なのではないか,と考えられているようである.

 この考察は他の動物の擬態と比べて考えると非常に興味深い.他の動物に擬態するものなどは除くが,周囲の環境にある物体に擬態するものではじっとして動かないのが基本である.しかしおそらくこのタコは海底を海流によって動くものを真似,多数ある足を活かして擬態と移動の両方を可能にしている.やはり頭足類らしく賢い行動なのかなと感じるところ.ただ実際に観察された例が少ないことを考えると,論文内でも考察されていたが周囲に隠れるところがない環境であることや,体サイズが小さい幼体の時期等,かなり限定された環境で獲得される行動なのかもしれない.

 また,実際に観察されている行動のパターンなどを読むと,2足歩行をし続けるというよりは漏斗から吐き出した水による遊泳やホッピング,2本以上の足による移動の中に混じって見られる行動でもあるようである.そう考えると若干インパクトは下がるような気もするが,むしろ頭足類の柔軟な判断力や複雑な行動パターンを可能にする知能の高さを示した事例でもあるように思われる.実際にどのような刺激に対しどの移動方法を選択するのかなど,まだまだ解析のしがいがある内容.体全体の動き・腕の動き・脳の働きなど複合的に解析できれば頭足類の思考パターンの理解などにも繋がりそう.