空き瓶の研究日誌

生物系大学院生の備忘録

論文備忘録)ウニの管足における表現型可塑性

リファレンス

Plasticity in the purple sea urchin (Strongylocentrotus purpuratus): Tube feet regeneration and adhesive performance.

Narvaez, C. A., Padovani, A. M., Stark, A. Y., & Russell, M. P. (2020).  Journal of Experimental Marine Biology and Ecology, 528, 151381.

 

要旨

アメリムラサキウニにおける管足の表現型可塑性の論文 

※表現型可塑性…同一遺伝子を持つにもかかわらず,環境要因などに応じてある形質の表現型が変化すること.

 

管足と棘はウニが基質に固着するために必要で生存の要となる器官である.これらの形態や吸着力は環境に応じて変化すると考えられているが,管足を欠損した際元に戻るまでにどのくらいかかるのかといったことや様々な環境要因と吸着力の関係性は明らかになっていなかった.この研究では,1,環境に応じた管足の表現型可塑性を調べること,2,管足の切除後機能が回復するまでの過程を解析すること,により管足の吸着能力と再生の動態を調べた.結果としては野外でも実験室内でも管足の表現型に可塑性が見られた.野外では泥岩地帯に生息するウニの方が砂岩地帯に生息するものより管足先端のdiscの表面積が大きかった.管足は表面の粗い基質でより吸着力を発揮しやすいことがわかっており,今回の結果は砂岩の方が泥岩より表面が粗いため,泥岩においてより強い吸着力が必要になり,表面積を拡大させることに繋がったのではないかと考えられる.また今回の実験では,一度切除した管足は元通りにはならずもとより短い状態で再生が完了していた.しかし,この結果は外部環境の影響を受けない実験室内で再生を進めた影響も含まれていると考えられる.

 

コメント

一言:ウニの管足は単なる吸盤ではない

棘皮動物のウニを用いた研究.ウニの管足は先端に円盤状の構造 (disc) が有り、そこから粘着性の物質を出して基質に吸着するらしい.このdiscの大きさが吸着する基質やタイサイズに応じて変化していることが確かめられた.今回の論文ではその記載にとどまるが,管足は感覚器官としても働いているようなのでどのようなフィードバックが働いてこの可塑性を実現しているのかも非常に興味深いところ.